2008年10月30日

「ゼロ年代」の名勝負数え歌 - プロレスリング・ノア「Autumn Navi '08」最終戦(武道館) -

一時代を築いたプロレスラーに共通する特徴は何かと問われたとき、私は「自身と同じくらい優秀なプロレスラーが同じ時代にいること」と答える。例えばアントニオ猪木とジャイアント馬場、長州力と藤波辰爾、三沢光晴と小橋健太、橋本真也・武藤敬司・蝶野正洋の闘魂三銃士、ザ・ロックにストーンコールド・スティーブ・オースティン、そしてエディ・ゲレロとクリス・ベノワ(番外で高山善廣とドン・フライ)。同時代に生まれた優秀なレスラー同士による「名勝負数え歌」は、その時代時代に支持されるプロレスとは何かを如実に表し、プロレス界全体を盛り上げ、さほとプロレスに興味のない人間をこの世界に引き込むきっかけとしても作用する。ゼロ年代の「名勝負数え歌」を担うレスラーは誰かと問われた時、丸藤正道とKENTA(本名:小林健太)の2人を挙げることに私は何のためらいもない。

彼らの戦いが一躍脚光を浴びたのは2006年1月。KENTAが持つGHCジュニア王座に丸藤が挑戦した試合だ(参考資料:youtube)。その年の10月、GHCヘビー級王者となった丸藤が挑戦者に指名して行われたタイトルマッチは、東京スポーツが毎年12月に発表するプロレス大賞の年間最高試合賞(ベストバウト)を獲得した(Part.1から4回に分割されて掲載されているようなので、興味のある方はご覧下さい)。

今回の対決、カードが組まれた当初は全日本プロレスのチャンピオンベルトである「世界ジュニアヘビー級」の王者となった丸藤にKENTAが挑戦することになっていたのだが、KENTAがGHCジュニアヘビー級のチャンピオンになったことでこの試合はお互いのベルトを賭けるダブルタイトルマッチとなった。丸藤はこの戦いの後に全日本プロレスの興行でタイトル防衛戦が組まれていたし、団体の垣根を越えた試合が初めて組まれるときはフルタイムドローに終わったことがままあるので、「ダブルタイトルマッチ」となった際に「60分フルタイムドロー決着」という結末に終わることは容易に想像できた。となると問題は、60分間観客を飽きさせず楽しませるために何を魅せるか、という点だ。これほど各々のレスラーのプロレス脳と、対戦相手との相性が試される試合もないだろう。果たして彼らはどんなインパクトを残してくれるのか、セミの試合で眠気に襲われたのでそのまま逆らわずに英気を養い、メインイベントを迎えた。

前置きが長くなったのでこの試合を見た私の感想を一言で書く。彼らは本物だ。

何だかんだで15年以上プロレスを見ているので、60分フルタイムに近い試合やフルタイムドローの試合はそれなりに経験があるわけだが、こんなに集中して、かつ興奮して観戦できた60分間は過去に例がない。彼らが技が繰り出されるたびにこちらの想像を軽々と超えてゆくのだが、それが最後まで続いたことに驚きを禁じえない。ただでさえプロレスファンが過剰な期待を込めざるを得ないカードであるというのに、プレッシャーに押しつぶされることなく素晴らしいプロレスを堂々と披露した丸藤とKENTAには恐れ入るばかりである。

次回の「名勝負数え歌」がいつになるか予想するのは難しいが、次回も我々プロレスファンの想像力を遥かに超える、プロレスラーにしか表現できない「凄さ」を見せて欲しい。

「Autumn Navi '08」私的写真集 要・mixiアカウント)

2008年10月27日

誇るべき勝利 - J1第30節 vs鹿島(関東村)-

試合前日、以下のようなプレビューめいたものを書こうと考えていた。

フロントによる味スタ満員大作戦が功を奏したのか、ホーム自由席は完売となった。他の席もそれなりに売れているようだ。天気が良ければ30,000人は超えそうな気配だが、今季の東京は30,000人を超えた全て敗れている。優勝という可能性は大きく後退したが、指揮官から「ACL」という単語が発せられたことで今節の鹿島戦への意気込みは日に日に高まっている。

ここでひとつ留意しておきたいのは、今節の勝利は「義務」ではない、という点だ。確かに勝てれば素晴らしいが相手は首位・鹿島。並大抵の力では勝利を手にすることはできないクラブであることは言うまでもない。確かに優勝やACLを目指すためには落とせない1戦ではあるが、勝利への過剰な期待は失望へと裏返るだけだ。持てる力を全て発揮して敗れたのであれば、私は拍手で選手達を迎えたいと思う。

結果論から言えば、書かなくて良かったことになる。私自身も余分にチケットを買って友達を誘おうと目論んでいたくらいだから、この一戦是非とも勝ちたいという気持ちは確かにあった。ただ、「観客30,000人以上全敗ジンクス」が頭をもたげ、フラストレーションがたまると選手を萎縮させる方向に場の空気が傾きやすい味スタにおいて、大観衆が逆の作用をもたらしはしないかという恐れもあった。ところが蓋を開けると、選手達の集中っぷりは尋常ではなかった。我らの指揮官は、何の算段もなく「ACL」という単語を発したわけではなかったのだ。「絶対に落とせない一戦」というプレッシャーを力に変え、ベストを発揮できるまでに選手達は成長していたのだ。「勢い」や「特定の選手の頑張り」ではない、クラブが一丸となって掴み取った誇るべき勝利だと言えよう。地上波放送効果か、会社の同僚から「おめでとう」という声をかけて頂いた。実況の土井氏が某テレビ局ほどではないにせよ鹿島びいきの実況だったのは少々残念だったが(ディレクターの方針なのだろうが・・・)、この素晴らしい試合を多くの方に見て頂いた、というのは喜ばしい限りだ。

2008年も残り4節。ホームの試合に至っては残り1試合。星勘定が気になるところだが、ここまで来れば勝てなかった分だけACLが、そして優勝が遠のくと捉えるのだ妥当だろう。残留争いを演じていた頃に「一戦必勝」という言葉をよく使っていたのだが、今季はポジティブな意味でこの単語を使えることに感謝して残り試合に臨みたい。差し当たり万博までの道程を決めなければ・・・。

【毎度おなじみの蛇足】
鹿島が2点目を挙げる直前、東京ゴール裏中心部は「仕事よりも女よりも」と歌い始めて間もない頃だった。あの鹿島相手にずいぶん余裕持ってるな、と考えた直後に失点。失点後もしばらくの間あの歌を歌い続けていた。その上、ユルネバに被せてコールを切ろうとしていた(今季2度目)。コールを仕切る人間が毎試合変わらないのであれば、そろそろ後進に道を譲ってはどうだろうか?
この調子だと天皇杯4回戦はこちらの方が危惧される通りの展開になりそうだ。

2008年10月25日

胸を張れ - J1第29節 vs大分(大分) -

チャンスを逃さず先制し、後は前がかりになった相手へ鋭いカウンターを発動させつつ逃げ切る。「堅守」大分が思い描くプラン通りの試合結果となった。シュートの意識が足りない個々の選手や審判に敗戦の責任を押し付けることも出来るだろうが、私は単に「クラブとしての成熟度」の差が結果として表れたのだと考える。

ペリクレス・シャムスカが大分を率いて今年で4年目になるが、監督歴そのものはゆうに10年を超えている。毎年毎年主力選手が引き抜かれ、「今年は厳しいだろう」と言われる中で一定の成果を出し続け、今年はこれまでのところ「ナビスコのファイナリスト」という称号に加え、優勝争いも演じている。ブラジルでの経験が今日の彼を作ったと言ってもいいだろう。片や城福浩。若年層の日本代表監督を勤める等、監督としてのキャリアは積んでいるが、プロのクラブを率いるのは今年が初めてである。昨年までは組織としての決まり事が全くなく、特定の個人能力に依存したフットボールを展開していて、闇雲にシュートを打てば積極的、バックパスなどしようものならブーイングや野次が飛ぶような環境だった。就任直後は「キャリア一年目の監督には荷が重いだろうな」などと考えていたものだ。

何故こんなことを書くかと言うと、我々がキャンプ開始からの10ヶ月で何を積み重ねてきたか、今一度確認したかったからだ。昨年のあの惨状からチームを引き継いだ城福監督が、1年未満でこのチームを優勝に手が届かんとする位置まで押し上げたのだ。確かにこの一敗で優勝から大きく遠のいた点は否定しないが、わずかな期間でも優勝争いに加われたのは貴重な財産だ。今年何位でシーズンを終えるか全く予想がつかないが、例え何位で終わろうが私は今年の順位を誇りに思う。

数日前「ACL」という単語が指揮官の口から語られたことで、大分での敗戦によるショックからは立ち直れたと判断できる。我々にとってACLが時期尚早なステージなのか否かは、究極的には結果論でしか語れない問題だと考える。であるから、可能性があるうちは追うべきだ。霧に覆われたアウェイでは大敗を喫したが、青空の下行われる(であろう)ホームでは、リベンジを果したい。

【蛇足】海賊版グッズで私腹を肥やし、監督を「天狗」呼ばわりする手合いから「鹿島戦は沢山友達を誘いましょう!」なんて煽られて「ハイそうですね」と言える程私は大人ではないのだが、フロントからメールで煽られたとあっては釣られざるを得ない。というわけで微力では一枚余分にチケットを買ってみた。私の知人でお誘いのメールが来た方は、運が悪かったと思って頂きたい。

2008年10月17日

永井良和『ホークスの70年 惜別と再会の球譜』(ソフトバンククリエイティブ)

Jリーグと比較した際に、プロ野球が上回っているところは何だろうか。観客動員数や興行の規模ではたしかにプロ野球が優勢だ。しかし、国際性や地域貢献という点では、すでにサッカーの方が高いレベルを示している。そのJリーグが、プロ野球に勝てない点といえば、歴史である。プロ野球には、複数世代にわたるファンが存在する。これは、金銭で買収することができないものだ。どうして、この最大の特色を、プロ野球は生かしきれないでいるのか。
(p.266 「終章 球史への敬意」)

月に一度書くと決めた書評だが、9月はさぼってしまったので10月は2冊分掲載予定。10月第一弾に取り上げるのは、「ホークス」を冠した職業野球団70年の歴史をまとめた本書である。中身についてはホークスの歴史を「戦前」「戦後」「福岡移転」「球界再編」の4つに分け、それぞれの時代においてホークスという球団と、そして職業野球そのものがどういった歩みを刻んできたのか、について書かれている。日本野球における「台湾人プレーヤー」の歴史は戦前から始まっていたとか、他チームの主力を引き抜く「巨人」の戦力補強の歴史は戦後直後から始まっていたとか、ホークス中心の野球史を綴ってはいるのだが、ホークスファン以外が読んでも面白いと思える記述は随所に見られるので、野球好きにもお勧めの一冊だ。

さて、この本を読んでいた頃にFC東京が創設10周年を迎えた。「歴史が浅い」と言われて久しいJリーグであるが、「プロリーグとしての」と前置きは必須である。前身である「東京ガスフットボール」は公式サイトによると1935年に創部した、との記述があるので、その時代をカウントすればFC東京は実に70年以上の歴史を誇るクラブということになる。ただ、2004年に「クラブ創立70周年記念○○」といったチケット販促イベントやグッズ販売が行われた形跡はないので、正史は1999年10月1日より始まった、ということなのだろう。
東京以外のクラブがリーグ以前の歴史をどう捉えているか気になって軽く調べてみたところ、クラブによってバラバラだった。例えばチーム名に「1969」を冠したことのあるヴェルディは、前身クラブの歴史の延長線上に現クラブが存在することを内外にアピールしている、最も顕著なクラブと言えるだろう。前身が川崎に本拠地を置く東芝サッカー部だった札幌のサイトを覗いてみると、東芝時代は参考記録程度といったニュアンスを感じる(2005年に10周年イベントとか開催したのだろうか)。そこへ行くとお隣の川崎は、ウェブサイトを見る限り1997年から歴史が始まったという解釈になる。横浜Fマリノスのクラブヒストリーには「F」の歴史もきちんと掲載されていたのは何よりだと感じる。

Jリーグ以前の歴史もカウントするよう統一するべきだ、といったことを主張するつもりは全くない。クラブで扱いが異なっていても全く構わない。ただ日本のフットボールの歴史が「1993年5月15日」に突然始まったわけではない、という認識はJリーグを愛する全ての人間が共有してもいいのではないかと考えるし、サポーターがクラブの枠を超えて共有しておかなければならない「過去」はあると思う。例えば数年前、新潟サポーターがマリノス戦で「ぶっちゃけ、"F"いらなくね?」という横断幕を掲げたことがあったが、とある東京サポの先輩は今でもあのダンマクに対し「当時新潟の指揮を取っていたのはあの反町康治だったというのに、「Fいらない」とは何事だ」と憤りを隠さない。歴史に触れる機会が彼(もしくは彼女)らになかったのだろう。

日本の職業野球は80年以上の歴史を誇るのに対し、日本の職業サッカーの歴史は20年にも満たない。だが、職業サッカーに至るまでの歴史は確実に存在したし、そういった「Jリーグ以前」について通り一遍でもいいから触れておけば、現在のJリーグをより一層深く楽しむことができるはずだ。例えばジェフは、前身の古河電工サッカー部の歴史を含めれば「クラブ創設以来一度も2部リーグを経験したことのないクラブ」である、といった具合に。

2008年10月 5日

Never give up - J1第28節 vs清水(飛田給) -

5連勝で迎えたホーム飛田給、対戦相手の清水に組み易しの印象は全く持っていなかったので難しい試合になることは分かっていた。山本の見事なミドルシュートが決まっても、無失点で乗り切れないことは想定内、その上見事すぎるシュートだった故に切り替えは容易だった。「まだまだこれから」と声を出せたのだが、私の周りの声量は明らかに減っていた。そうこうしている間に2点目、3点目。前がかりになって攻めた後半、1点返して畳み掛けられなかったところに4点目。事ここに至って気持ちが切れてしまった。

試合後しばらくの間立ち上がれなかったが、歌い続けるゴール裏を見ていて「切り替えなきゃな」と思い至ることができた。同じ時間帯に試合のあったガンバvs鹿島はスコアレスドロー、そして大分が敗れたことは知っていたので、首位との勝ち点差を縮められた可能性もあったわけで、この敗戦は正直痛い。だが、まだ何も終わっていない。ゴール裏へ向かってくる選手達に「下を向くな」と声が飛んでいた。全く以ってその通りだ。

試合後の会見で、城福監督は残りの6試合を「トーナメントのつもりで」臨むとコメントした。昨年や一昨年の今頃は、「一戦必勝」の精神を残留の為に発揮しなければならなかったわけだが、今年はポジティブな意味で残り試合を戦うことができる。その点に限って言えば、とても幸せなことだと言えるだろう。

今日は浦和が千葉相手に敗れ、名古屋が引き分けた。その結果首位との勝ち点差は6と少し開いたとなったが、次節は大分、そしてホームは鹿島。今節の敗戦を糧にして挽回するには十分過ぎる対戦相手だ。特に大分との対戦は、上位戦線に食らいつけるか否かを決定する重要な試合。難攻不落のビッグアイだが、シャムスカ就任以降のビッグアイでは不敗記録が続いていることもあって、個人的にはあまり嫌な印象のないスタジアムだが、果たして・・・。

【応援について】
試合終了後は見事だったが、試合前にあろうことか「You'll Never Walk Alone」に被せて応援歌を仕切りだした時には怒り心頭だった。試合前にバックもメインもゴール裏も関係なく、スタジアムの一体感を演出できるのはあの歌だけなので、今後このようなことがないようにして頂きたいものだ。