永井良和『ホークスの70年 惜別と再会の球譜』(ソフトバンククリエイティブ)
Jリーグと比較した際に、プロ野球が上回っているところは何だろうか。観客動員数や興行の規模ではたしかにプロ野球が優勢だ。しかし、国際性や地域貢献という点では、すでにサッカーの方が高いレベルを示している。そのJリーグが、プロ野球に勝てない点といえば、歴史である。プロ野球には、複数世代にわたるファンが存在する。これは、金銭で買収することができないものだ。どうして、この最大の特色を、プロ野球は生かしきれないでいるのか。(p.266 「終章 球史への敬意」)
月に一度書くと決めた書評だが、9月はさぼってしまったので10月は2冊分掲載予定。10月第一弾に取り上げるのは、「ホークス」を冠した職業野球団70年の歴史をまとめた本書である。中身についてはホークスの歴史を「戦前」「戦後」「福岡移転」「球界再編」の4つに分け、それぞれの時代においてホークスという球団と、そして職業野球そのものがどういった歩みを刻んできたのか、について書かれている。日本野球における「台湾人プレーヤー」の歴史は戦前から始まっていたとか、他チームの主力を引き抜く「巨人」の戦力補強の歴史は戦後直後から始まっていたとか、ホークス中心の野球史を綴ってはいるのだが、ホークスファン以外が読んでも面白いと思える記述は随所に見られるので、野球好きにもお勧めの一冊だ。
さて、この本を読んでいた頃にFC東京が創設10周年を迎えた。「歴史が浅い」と言われて久しいJリーグであるが、「プロリーグとしての」と前置きは必須である。前身である「東京ガスフットボール」は公式サイトによると1935年に創部した、との記述があるので、その時代をカウントすればFC東京は実に70年以上の歴史を誇るクラブということになる。ただ、2004年に「クラブ創立70周年記念○○」といったチケット販促イベントやグッズ販売が行われた形跡はないので、正史は1999年10月1日より始まった、ということなのだろう。
東京以外のクラブがリーグ以前の歴史をどう捉えているか気になって軽く調べてみたところ、クラブによってバラバラだった。例えばチーム名に「1969」を冠したことのあるヴェルディは、前身クラブの歴史の延長線上に現クラブが存在することを内外にアピールしている、最も顕著なクラブと言えるだろう。前身が川崎に本拠地を置く東芝サッカー部だった札幌のサイトを覗いてみると、東芝時代は参考記録程度といったニュアンスを感じる(2005年に10周年イベントとか開催したのだろうか)。そこへ行くとお隣の川崎は、ウェブサイトを見る限り1997年から歴史が始まったという解釈になる。横浜Fマリノスのクラブヒストリーには「F」の歴史もきちんと掲載されていたのは何よりだと感じる。
Jリーグ以前の歴史もカウントするよう統一するべきだ、といったことを主張するつもりは全くない。クラブで扱いが異なっていても全く構わない。ただ日本のフットボールの歴史が「1993年5月15日」に突然始まったわけではない、という認識はJリーグを愛する全ての人間が共有してもいいのではないかと考えるし、サポーターがクラブの枠を超えて共有しておかなければならない「過去」はあると思う。例えば数年前、新潟サポーターがマリノス戦で「ぶっちゃけ、"F"いらなくね?」という横断幕を掲げたことがあったが、とある東京サポの先輩は今でもあのダンマクに対し「当時新潟の指揮を取っていたのはあの反町康治だったというのに、「Fいらない」とは何事だ」と憤りを隠さない。歴史に触れる機会が彼(もしくは彼女)らになかったのだろう。
日本の職業野球は80年以上の歴史を誇るのに対し、日本の職業サッカーの歴史は20年にも満たない。だが、職業サッカーに至るまでの歴史は確実に存在したし、そういった「Jリーグ以前」について通り一遍でもいいから触れておけば、現在のJリーグをより一層深く楽しむことができるはずだ。例えばジェフは、前身の古河電工サッカー部の歴史を含めれば「クラブ創設以来一度も2部リーグを経験したことのないクラブ」である、といった具合に。

